【川口由美子 特別分析レポート】日本の株価を揺るがす10大世界ニュース

①【米中半導体制裁】半導体関連株に再び冷たい風

2025年2月、中国への輸出管理を米国がさらに厳格化。

影響を強く受けたのは、日本の誇る半導体製造装置メーカーである東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテックなどです。これらの企業は、売上の20~40%を中国市場に依存しており、今回の制裁で一部の取引先が事実上「取引停止」状態に陥りました。

2月16日現在、東京エレクトロンの株価は前週比で6.2%下落。これは2024年10月の中国生産減速以来の大幅な下げ幅です。投資家の不安心理も強く、信用売りが急増しており、今後の戻りにも慎重な見方が出ています。

背景には、米国議会が提出した「対中ハイテク制限法案」通過の思惑があり、これが現実化すれば半導体産業のグローバルサプライチェーンに重大な影響を与えると予想されています。

投資家にとっての注目点は、技術力に裏打ちされた企業が短期的な逆風にどう耐えるか。そして、中国以外の代替市場(インド、東南アジア)への展開速度です。

②【為替動揺】円は“149円台”の攻防線

ドル円為替レートが2月中旬に149.65円をつけたことで、市場に再び円高圧力と円安圧力が入り混じる状態が続いています。

この為替の微妙な動きは、特に輸出型企業にとって大きな意味を持ちます。たとえば、ホンダの2024年度決算資料によれば、為替が1円変動するだけで営業利益が約90億円変動すると試算されています。149円から145円へと4円動けば、利益にして約360億円の差が出る計算です。

加えて、2月には日銀による「利上げ検討」の報道があり、為替市場は極めて神経質になっています。これにより、為替が150円を超えれば当局の円買い介入が行われる可能性も指摘されています。

為替リスクを減らす方法として、為替ヘッジ付きETF(たとえばiシェアーズMSCIジャパンヘッジ)などへの分散投資が今再び注目を集めています。

③【米テック株の下落が誘爆】東京株式も揺らぐ

米国市場では2月中旬、主要テクノロジー企業の決算が相次いで発表されました。中でも、AI開発投資が先行していたマイクロソフト、エヌビディアの株価が決算後に軟調な動きを見せ、ナスダック指数は2日間で約3.2%の下落を記録しました。

この流れを受けて、日本の東証でも半導体製造装置や電子材料関連株に売りが波及。東京エレクトロン、信越化学、日東電工などが一斉に下げ、2月15日の日経平均株価は一時600円を超える下落となりました。

こうした現象は、いわば“感情の連鎖反応”です。米国企業の将来性が一時的に疑問視されると、それに部品や材料を供給している日本企業にも「ついで売り」が起こる構図。

しかし、日本のテック株には米企業と異なり“実需主導”の傾向が強く、AIやEV向けなど安定した受注が背景にあることも確かです。投資家は短期的な動揺に惑わされず、業績基盤の堅い銘柄を冷静に拾う判断力が問われる局面です。

④【バフェット氏が商社株を選別】日米市場で逆風も商社だけは高値更新

“投資の神様”ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが日本の5大商社株を保有しているのは有名ですが、2025年2月、そのうちの三菱商事と伊藤忠商事の保有比率をさらに引き上げたとの報道が入り、市場に大きなインパクトを与えました。

三菱商事の株価は直後に8.8%急騰し、年初来高値を更新。
その背景には、「資源価格の安定」や「インフレ時の強さ」だけでなく、「経営陣の資本効率改善への取り組み」が評価されている点が挙げられます。

特に三井物産では、ROE(株主資本利益率)向上と株主還元のバランスを意識した資本政策が功を奏しており、今後も自社株買いと増配が続くと予想されます。

高齢投資家にとって、商社株は「配当が高く、景気変動に強い」という理想的な特性を持っています。長期保有での資産防衛を考えるなら、有力な選択肢と言えるでしょう。

⑤【GDP伸び悩むもプラス】経済指標に“株支援の声”

内閣府が発表した2024年第4四半期GDP(実質ベース)は年率+2.8%と、想定よりもやや強めの結果となりました。

設備投資と個人消費がけん引役となった一方、純輸出は外需低迷によりマイナス寄与。
特にインバウンド需要の回復が堅調だったことが、飲食・観光・小売業を中心としたサービス産業に追い風をもたらしました。

この結果を受け、2月16日の株式市場では、小売業界やJR西日本、Jフロントリテイリングなどが買われました。

一方で「想定範囲内」の数値であったため、日経平均全体への影響は限定的。
“経済の安定が株価の土台を支える”ことを改めて示した指標でもあり、短期的な期待より中期的な展望に重きを置くべきタイミングといえます。

⑥【市場見通し】アナリスト、日経平均の回復を示唆

ロイター通信が発表した市場参加者調査では、複数の国内外機関が「日経平均は年央までに約4.6%上昇し、40,000円に達する可能性が高い」との見通しを示しました。

根拠として挙げられたのは、企業の好決算と円高圧力の一巡、さらに日銀の過度な利上げ観測が後退したこと。

加えて、2025年度に入ってからの企業業績は、堅調な国内需要と経費削減による収益改善が進んでおり、海外投資家の買い戻しも一部始まっています。

これは、“市場の本音”が「悲観一色ではない」ことを意味しています。
下落局面で過剰に悲観せず、“今が買い場”との考え方を裏付ける材料となり得ます。

⑦【日銀・上田総裁が言及】「米経済の弱さ」で市場波乱も

日銀の上田総裁は記者会見で、2024年夏以降に日本株市場が不安定になった主因として「米国の経済指標悪化(特に雇用統計やISM指数)」を挙げました。

日本経済そのものが堅調でも、米国の景気に連動して相場が荒れるという“つながり”が、改めて浮き彫りになった形です。

これはつまり、外国人投資家の日本株保有比率が高いため、彼らの投資判断次第で東京市場が思わぬ揺れに巻き込まれるリスクがあるということ。

日本の高齢投資家にとっては、「国内要因だけでは株価は語れない」ことを示す好例です。
資産防衛のためには、世界の経済指標にもアンテナを張る習慣が求められます。

⑧【個人投資家の動き】“安全志向”で債券買いが加速

2025年2月、日本の個人投資家が大きく動きました。最新の財務省統計によると、個人投資家による外国債券の買い越し額は3.45兆円と、過去12ヶ月で最大の水準を記録。一方で、外国株式の売却も進んでおり、その額は約2.2兆円にのぼりました。

この動きの背景には、世界経済の不安定さと、日本国内での金利上昇観測による「インカム重視」姿勢があるとみられます。特に70歳以上の投資家層では、「値上がり益」より「毎年の受取利子」を重視する傾向が鮮明になっています。

また、2025年から導入された『新NISA制度』の影響も大きく、安全資産である債券型ETF(たとえば1476:iシェアーズ米国債ETF)への資金流入が増加。

高齢世代にとって、予測しにくい株価よりも、“確実に入ってくる利子”の魅力が再認識されている時代と言えそうです。

⑨【世界の悲観と楽観】格付け分かれるアナリストたち

グローバルな視点で見ると、2025年2月時点の市場には“対照的な2つの見方”が混在しています。

1つは「悲観論」。米中摩擦の激化、欧州の景気後退リスク、中東情勢の不安定化などを背景に、「いまは株を持つべきではない」との主張です。

もう1つは「楽観論」。一時的な関税問題は交渉の一環であり、企業業績は底堅く、特に日本はインフレ環境でもコスト対応力が高い企業が多いため、“今こそ割安”とする立場です。

たとえば、大和証券やゴールドマン・サックスは「輸出株と内需株の二極化が進行中」と分析。
また、「円高と金利上昇のピークを越えれば、株価は自律反発へ向かう」とする声もあります。

私たち個人投資家にとっては、こうした「二極化の見解」を受け止めた上で、自分のリスク許容度と相談しながら“中立〜防御型”の投資スタイルを保つことが現実的な選択といえるでしょう。

⑩【2月振り返り】TOPIX-3.8%、日経-6.1%の落ち込み

2月の日本株市場は、まさに“波乱相場”といえる展開でした。

Sumitomo Mitsui Trustアセットマネジメントによると、2月全体の月間パフォーマンスはTOPIXが‐3.8%、日経225は‐6.1%の下落となりました。

要因は複合的であり、米中関係の悪化、半導体制裁の影響、円高進行、そして米国の利下げ見送り観測などが絡み合い、全体的に「売りが売りを呼ぶ」展開となったのです。

一方、逆にこの下落が“底値形成”のサインと見る専門家もいます。
過去10年間を見ても、日経平均が月間で5%以上下げた後の3ヶ月後には、7割以上の確率でプラスリターンを記録しているという統計も存在します。

つまり、急落の後には「回復の芽」が出始める。
今はあえて“慌てず”、現金ポジションを活かして、良い銘柄を見極める時期と言えるのです。


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